賃料(家賃や地代)の増額請求・減額請求の鑑定評価

1.賃料増額・減額請求時に求める賃料~新規賃料と継続賃料の違い

 家賃や地代の値上げ・値下げを請求したいと考える一番のきっかけは、今の家賃や地代が周辺と比べて、高い(安い)のでは?と思った時ではないでしょうか。
 周辺の賃料水準と同じ位にしてほしいと当事者間でお話合いをする分には問題ないのですが、もし、調停や裁判・訴訟など争いになってしまった場合には、ただちに周辺の賃料水準まで値上げや値下げとはならない場合が多いので注意が必要です。

 調停や裁判などで賃料について争いになった場合には、不動産鑑定評価によって適正な賃料を求め、これを参考に改定賃料が決定されることが多いのですが、ここで求める賃料は新たに賃貸借等の契約を締結する場合の適正な賃料=「新規賃料」ではなく、継続する賃貸借の特定の当事者間において成立するであろう経済価値=「継続賃料」です。

 2つの賃料は適用する鑑定手法も最終的な鑑定評価額も異なりますので、賃料増減額請求をしたい時には、「新規賃料」を調べるだけではなく、「継続賃料」がどの位になるかを把握しておくことが重要です。

2.継続賃料の求め方

 「継続賃料」は鑑定評価の手法(差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等)によって求めた賃料を関連付けて決定するのですが、その際に現在の賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」とします。)から賃料増減請求時点までのあいだに、賃料増額または減額となるような「事情変更要因」と、契約当初からの「諸般の事情」を分析し、契約当事者が過去に合意して決めた「契約自由の原則」を尊重しつつ当事者間の公平に留意して、最終的な鑑定評価額を決めることとなります。
(※各手法の詳細の説明は省略します)

イメージ図:不動産鑑定評価基準に関する実務指針より抜粋

 よって、直近合意時点から賃料減額請求時点までの間に、事情変更要因が全くなければ、たとえ周辺の新規賃料の水準よりも現在の賃料が割高でも、割高な賃料で合意したという契約自由の原則が尊重されるので、賃料減額請求は認められないことが多いのです。
 反対に、直近合意時点には親戚同士だったので、安く貸していたが、現在はオーナーチェンジがあり貸主との人的関係が変わったような事情変更要因がある場合には、一般経済変動が無い場合でも賃料の増額請求が認められる可能性があります。

3.事情変更要因の例

 では、事情変更にはどのようなものがあるのでしょうか。不動産鑑定評価に関する実務指針(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会)(以下「実務指針」)で例示されている事情変更要因は以下のとおりです。

●経済的事由に係る要因
・物価や所得水準の変動
・地価水準や建築費相場の変動
・税制の変更
●継続賃料特有の要因
・近隣地域(類似地域)の宅地の賃料又は代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
・土地(建物)価格の推移
・賃料に占める純賃料の推移
・底地(建物及びその敷地)に対する利回りの推移
・公租公課の推移
・契約の内容及び経緯(合意賃料に至った要因)
・契約期間に対する経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
・賃料改定の経緯
・合意賃料決定の要素

また、裁判において検討された具体的な事情変更例としては、
・特別な「親睦関係」の解消、同族会社の解消等
・当初契約時の約定が守られなかったという事情
・貸主からの強い要請、売り上げ協力を前提に条件の悪い土地を賃借した事情
・篤志家が採算ベースを度外視して役所に安く貸付けたという事情
・血族関係の存在及び同居扶助生活を通じた身分的つながりから、賃料等を低廉に取り決めたという事情
・将来、固定資産税が大幅に上昇することは予見せず、かつ予見できなかったという事情
・賃料保証を前提として収支予測、多額の資本投資と銀行借入を行ったという事情
・約定賃料額と当時の近傍同種の賃料相場との関係、借主の収支予測に関わる事情、貸主の返済予定に関わる事情

などがあります。

 イメージ図:不動産鑑定評価基準に関する実務指針より抜粋

4.直近合意時点の判定

 事情変更の検討で重要となる「直近合意時点」は「契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点」なのですが、判断に迷うケースについて、実務指針では以下のように判断しています。

①賃料自動改定特約があり、自動に改定された場合
→自動改定時ではなく、自動改定特約の設定契約を行った時点(※)

②賃料改定の合意がないまま自動更新されている場合
→自動更新時点ではなく、現実の合意があった時点(※)

③賃料を改定しないことを現実に合意し、同額で更新した場合、
→同額更新した時点(※)

※時点=合意した契約が適用された時点
契約日ではなく、契約が適用された日となります。
(例 2021年4月1日からの賃料を2021年3月28日に契約した場合の直近合意時点は2021年4月1日)

5.まとめ

 継続賃料の鑑定評価は、周辺「新規賃料」相場だけでなく、様々な要因を分析する必要があります。特に、「直近合意時点」がいつなのか、「事情変更要因」があるかどうかの判断は難しいため、賃料増減額請求が出来そうかどうかの判断に迷うことも多いかと思います。よって、賃料値下げ・値上げを請求する前にまずは弁護士の先生や不動産鑑定士に相談することをおすすめします。
 また、争っている相手が「継続賃料」が重視されることを知らずに「新規賃料」の査定書や不動産鑑定評価書を出して来るといったケースも良く見られます。そのような場合には、「新規賃料」ではなく、「継続賃料」の評価を要求してみて下さい。
 家賃や地代の増額・減額請求時には「継続賃料」の不動産鑑定評価が重要です。何かご不明点などありましたら弊社までお気軽にご相談下さい。