調停・訴訟・裁判で不動産評価が必要な時

~不動産鑑定と不動産査定の違い~

 遺産分割や財産分与、遺留分侵害額請求、賃料増減額請求などの調停・訴訟・裁判で、不動産評価額の資料の提出を求められたとき、不動産鑑定評価書と不動産査定書のどちらを提出すれば良いのか悩まれることがあるかと思います。

 先月のブログ不動産鑑定の活用方法 – 赤熊不動産鑑定所 (akaguma-kantei.jp)では不動産査定書と不動産鑑定評価書の違いについてお伝えしましたが、今回は調停・裁判・訴訟などで不動産評価額が必要な時にどのような違いがあるのかについてお伝えします。

〇不動産査定書の特徴

 不動産査定書は不動産会社が宅建業法に基づき不動産の売り出し価格を提案するために作成する書類です。「うちの会社はこの価格で売り出しをスタートします」という価格のため、実際に売れる価格(=時価)より高めな査定額が示される傾向があります。また、不動産業者の買取価格を示す場合などは、時価よりも低めな査定額となることもあります。

 不動産売買の営業の一環として作成されるため、費用は無料ですが、「不動産の売却を検討している人」のためのサービスなので売る予定が無い人は依頼できません。また、様式や査定手法は自由なため、A41枚に所在地と価格を書いただけのものや、査定ソフトで自動作成されたもの、不動産鑑定評価と似た手法により作成されたものなど、不動産会社によってクオリティはまちまちなことが多いのです。また、作成に資格は不要のため、担当者によって精度が異なるケースも見られます。

〇不動産鑑定評価書の特徴

 不動産鑑定評価書は、市場で形成されるであろう市場価値を判断した書面で、時価を証明する証拠資料となります。

 不動産鑑定評価書は不動産鑑定士しか作成することができない書面です。有料にはなりますが、不動産の売却を予定していない人でも時価を証明する資料として利用することが可能です。

 また、評価の手法や記載しなければならない内容は不動産鑑定評価基準により定められているため、作成者によって大幅にクオリティが異なるということは少なく、単に価格を提示するだけの書面ではなく、価格についての説明がメインになります。

  

〇価格資料提出後の対応の違い

 調停や裁判で不動産の価格でもめている場合、不動産査定書や鑑定評価書を提出後に相手から価格に対して反論されることが良くあります。

 不動産鑑定評価書を提出した場合であれば、不動産鑑定士は価格の補足説明や相手からの反論があればそれに対して再反論もしますが、不動産査定書を提出した場合には、不動産会社は価格の説明や相手への反論は売買活動とは関係の無い仕事のため、対応は難しいでしょう。

 また、多くの不動産査定書には、「不動産の鑑定評価に関する法律に基づく不動産鑑定評価書ではありません」「他の目的に利用したり、内容を第三者に口外することのないようお願いします」などと記載されていますので、裁判所への提出など目的外使用をすると問題になるかもしれません。

〇裁判所で不動産鑑定をすることになった場合

 価格の折り合いがつかなかった場合、裁判所で不動産鑑定をすることになる場合があります。結局裁判所で鑑定をするのなら、事前に鑑定評価書を提出しておく必要はないのではと考えがちですが、裁判所選任の不動産鑑定士はそれぞれが提出した査定書や不動産鑑定評価書の内容を見てくれます。事前にこちらが主張する価格や賃料の妥当性について十分な説明がされていれば、裁判所の不動産鑑定評価においてもその点を考慮した結果となることが多いため、不動産鑑定評価書を証拠資料として提出しておくことは非常に有用です。

 

〇不動産鑑定評価書が特に有効なケース

 また、特に以下のような時価の把握が難しい物件については査定書では対応できないことも多いため不動産鑑定評価をおすすめします。

  • 容積率未消化・既存不適格建物の収益物件の評価

 収益物件の場合、不動産査定書では現在の家賃を利回りで割り戻した金額=収益還元法のみが使われる場合が多いのですが、その物件が既存不適格建物(参考:「既存不適格建築物」について – 赤熊不動産鑑定所 (akaguma-kantei.jp))で、容積率を超過している場合などは、査定額が高額となる可能性があります。また、容積率未消化の物件の場合は反対に査定額が低位になってしまいます。

不動産鑑定評価の場合にはその不動産の最有効使用を判定し、価値を判断しますので、現在の収益物件の賃料だけでなく、将来の増価・減価の可能性についても十分に考慮して鑑定評価額を決定します。

  • 限定価格

 不動産鑑定には、通常の第三者取引の時価である「正常価格」のほか、市場が相対的に限定され、当事者間でのみで成立する価格「限定価格」が必要なことがあります。例えば、隣地所有者へ土地を売却する場合や、地主に借地権を買い取ってもらう場合などです。これらの場合には隣地と一体利用できるメリットや、借地権と底地の併合により完全所有権になるメリットにより価値が大幅に上がる可能性もあります。

〇使用貸借されている土地

 親の土地に子供が建物を建築して使っていた場合に、その土地が相続財産になった場合などは、子供が土地を無償使用する権利(=使用借権)を控除しなければならない場合もあります。不動産鑑定では使用借権を考慮した評価も行います。

〇過去時点の評価

 遺留分侵害額請求の場合など、現在の価格ではなく、相続時点の価格が知りたいときもあるかと思います。不動産査定が出来るのは現在の査定価格のみですが、不動産鑑定の場合には過去時点の鑑定評価が可能です。

〇賃料の不動産鑑定と不動産査定

 賃料(家賃・地代)の争いで適正賃料の資料が必要になった場合には、新規に賃料を設定する場合の「新規賃料」ではなく、継続する賃貸借契約の賃料「継続賃料」を求めなければなりません。(参照:継続賃料「賃料(家賃や地代)の増額請求・減額請求の鑑定評価 – 赤熊不動産鑑定所 (akaguma-kantei.jp))「継続賃料」については、査定書では対応できませんので、この場合も不動産鑑定を検討する必要性が高いと考えます。

〇まとめ

 不動産鑑定評価書と不動産査定書は以上のような違いがあります。売却を前提としていて、単に価格だけが分かればよいのか、その詳細説明が必要なのか、提出後にアフターフォローが必要か、複雑な案件ではないか等を十分に考慮して、鑑定評価書のご利用をご検討されてはいかがでしょうか。