防災対策はリスクの把握から

 近年、台風や集中豪雨などにより全国各地で大規模な水害が発生しています。これを受けて、国や自治体ではハザードマップを活用した水害リスク情報の提供を開始しました。避難経路や避難場所に関する情報も周知するなど、水害被害を軽減する取り組みが進められています。また、不動産取引においてもリスク情報の説明が義務化(※)されるなど、水害リスクへの関心が高まっています。

(※)令和元年7月国土交通省から宅地建物取引業者宛に不動産取引時のハザードマップ活用による水害リスクの情報開示と提供依頼を発令。令和2年7月重要事項説明の対象項目として追加し、不動産取引時にハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することを義務化。

実際にハザードマップを使ってみましょう

 自然災害の被害範囲を予測して地図化したハザードマップは国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」で広く公開されており、どなたでも確認できます。調べ方は次の通りです。

国土交通省:ハザードマップポータルサイト   https://disaportal.gsi.go.jp/

【手順

  • ①ハザードマップポータルサイトのトップページを開きます。
  • ②「重ねるハザードマップ」の[場所を入力] ボックスに調べたい市区町村などの地名を入力して検索ボタン(虫眼鏡マーク)をクリック。
  • ③居住地などの地図が表示されます。災害種別から調べたい種別、例えば[洪水]を選択します (災害種別は[洪水] [土砂災害] [高潮] [津波] [道路防災情報]などを同時に選択することができ、重ねて表示することができるようになっています) 。
  • ④洪水浸水想定区域が黄色から赤にかけて色分けされ、災害リスク情報が表示されます。

 このポータルサイトでは、「重ねるハザードマップ」、「わがまちハザードマップ」2種類のハザードマップを調べることができます。

 「重ねるハザードマップ」は、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどを地図や写真に自由に重ねて表示できます。

 「わがまちハザードマップ」では、各自治体が公開しているハザードマップを調べることができます。避難所の場所など、詳細な情報が盛り込まれたものになり、最新の情報として活用できます。注意したい点は、更新のタイミングが異なったり、市町村で詳細な情報を追加している場合などがあり、この2つのハザードマップは必ずしも内容が一致しない場合があります。

詳細な使い方は、ハザードマップポータルサイトの「使い方」や「使い方を動画で見る」などを参考にしてみてください。

災害リスクと不動産価格

 自分の家がハザードマップの浸水想定区域に該当している場合、不動産の価値が下がるの?売却できないの?といった不安の声を聞きます。実際のところどうなのでしょうか。浸水想定区域は水害被害を低減する目的のために作成されたものであり、不動産取引に規制をかけるために作成されたものではないため、浸水想定区域内に該当しているというだけでは、基本的には物件価格には影響はありません。ただし、過去に浸水被害があった地域やその周辺では再発リスクがあるため価格に一時的な影響が及ぶことも考えられます。その場合であっても、被害の程度や、駅から近いなど立地が良い場合には、それほど大きく影響を受けないこともあります。

不動産鑑定評価における自然災害の影響

 かつてはハザードマップで「危険度高」とされた地域からの、「公表されると不動産価値の低下などの損害が起きる」との懸念がありました。しかし「人命に関わるリスクを正しく認知できる」「行政が危険度の高い地域に適切な対応をしているか監視ができる」などの有用性の認知により、この懸念は解決しつつあります。

 不動産鑑定業においても、土砂災害、水害に関するハザードマップの確認は宅地建物取引業における重要事項説明で義務づけられている事と同じく、鑑定評価の調査にあたり必要であると言えます。

 ハザードマップの情報を不動産評価に活用する際にあたっては、価格形成要因の内これらの自然的環境条件に係る要因を理論的な裏付けのある数値に基づき予測し、なるべく客観的な資料に基づき見逃すことのないように判断することが必要となります。

 既に水害リスクの明確な地域では、価格形成要因に災害発生の危険性が織り込まれており、これを前提とした価格水準が形成されていると考えられます。これらの自然的災害に係る不動産の減価については、その蓋然性の判定に高度な予測を伴うことから安易に価格形成要因への影響を判定することは避け、見落とすことのないよう、慎重に判断すべきであると共に、当該区域に対する市場性の減退、一度災害が起こった地域においては、災害に配慮した建築設計によるコスト高傾向等が認められる場合があることに留意しつつ適切な判断をするべきです。

防災対策への意識

 自然災害が多発する昨今、ハザードマップはリスク回避につながる有益な情報です。不動産を購入したり借りたりする時は、駅からの距離や生活環境の利便性に目がいきがちですが、今回の規則改正によって今後は「水害リスク」をより身近なリスクと認識することになり、我々の意識も変わってくるのではないでしょうか。