「既存不適格建築物」について
以前のブログ記事において、不動産には多岐にわたる法令が関連しているとご紹介しましたが、今回はその法令の変更等によって現在の法令に適合しなくなってしまった建築物についてご紹介したいと思います。
都市計画法や建築基準法などの不動産に関する行政法規は、社会環境の変化や防災上の観点、建設技術・性能の進捗等、時代の要請にあわせて改正が重ねられてきました。したがって、現に存する建築物の中には、その建物が建築された当時の法令に適合していたものの、その後の法改正や用途地域の変更等により、現時点で適用される法令に適合しなくなっている(不適格な部分が生じている)建築物もあります。このような建築物を「既存不適格建築物」といいます。
例えば次のようなケースがあります。
①建築基準法第52条第1項に基づき、都市計画において指定されている容積率が建物の建築された当時200%であったものが、その後の変更により150%になったことで現に存する建築物が容積超過となっている。
②建築基準法第48条、別表第二において用途地域による建築物の用途制限が定められていますが、建物の建築された当時は「住居地域」に指定されていて「自家用倉庫」を建築したものの、現在は「第1種住居地域」に指定され、同じ大きさ(床面積)の自家用倉庫を建築することができない。
なお、用途地域は計画的な市街地を形成するために、市街地の類型に応じて建築を規制するべく指定する地域で、昭和45年の新法制定時には8種類、平成4年の法改正で12種類へ細分化され、平成30年に追加された田園住居地域を含め現在13種類あります。
既存不適格建築物は、原則として用途の変更や増築等をせずにそのまま継続利用することは問題ありません。また、新しい規定が適用されないため、違反としての刑事罰や行政処分の対象にもなりません。
一方、建築当初から法令に適合していない建築物や増改築工事等を行うことによって法令に適合しなくなった建築物、建築確認申請が必要なのに確認を受けることなく建築された建築物などは「違反建築物」となります。
違反建築物に関しては、建築主や建物の工事請負人、敷地所有者などに対して除却や使用制限などの行政的措置が取られることもあります(建築基準法第9条第1項)。
既存不適格建築物であるか否かは、従前の法令に適合していたことの確認と現行法令に適合しなくなっていることの確認が重要になります。この場合、単に手持ちの資料による確認だけでなく、行政担当窓口での詳細な状況確認等を行うことが大切です。もちろん信頼できる専門家に相談してみるのもよいでしょう。
先程の容積率についてもいくつかの特例(共同住宅での共用廊下・階段の床面積不算入など)があり、登記面積上では都市計画に指定された容積率を超過している場合もあるので注意が必要です。